「建てて30年になるけど、まあ今まで何ともなかったし……」。そう思って、耐震のことを後回しにしていませんか。
2025年12月19日、内閣府は首都直下地震の被害想定を約10年ぶりに改定しました。ニュースでは「約40万棟が全壊・焼失」という数字が大きく報じられましたが、実はこの数字、前回(2013年)の想定より約21万棟減っています。耐震化と火災対策が着実に効いているのです。
ただし、朗報だけではありません。国が掲げた「10年で死者数・全壊焼失棟数を半減させる」という減災目標は、達成できていません。理由のひとつが、住宅の耐震化率が目標(95%)に届いていないことです。つまり、まだ「自分の家」でやれることが残っている、ということです。
この記事では、東京・一都三県で家を持つ方に向けて、2026年8月時点で使える制度を整理しました。難しい制度名も、できるだけ噛み砕いてお伝えします。
旧耐震基準の住宅とは、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた住宅のことです。建築基準法は大きな地震のたびに改正されてきましたが、最大の転換点が1981年6月1日の改正でした。
| 区分 | 建築確認の時期 | 基準の考え方 | リスクの目安 |
|---|---|---|---|
| 旧耐震基準 | 1981年(昭和56年)5月31日以前 | 震度5強程度の地震で大きな損傷を受けない | 震度6強〜7では倒壊のおそれ |
| 新耐震基準 | 1981年(昭和56年)6月1日以降 | 震度6強〜7程度でも倒壊しない | 比較的安全だが個別診断が望ましい |
| 2000年基準 | 2000年(平成12年)6月1日以降 | 地盤調査、接合部の金物、耐力壁の配置バランスを規定 | さらに安全性が高い |
出典:国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
2025年12月19日に公表された新しい被害想定(都心南部直下地震・Mw7.3)では、建物の全壊および焼失が約40.2万棟、死者数は約1.8万人と想定されています。これは2013年の想定(約61万棟/約1.6万〜2.3万人)から、いずれも減少した数字です。
減少の内訳を見ると、対策の効果がはっきりわかります。
| 被害の要因 | 2013年想定 | 2025年想定 | 主な減少理由 |
|---|---|---|---|
| 揺れによる建物全壊 | 約17.5万棟 | 約11.2万棟 | 建物の耐震化の進展 |
| 地震火災による焼失 | 約41.2万棟 | 約26.8万棟 | 感震ブレーカーの普及、喫煙率低下等による出火率減少 |
| 建物倒壊等による死者 | 約6,400人 | 約5,300人 | 建物の耐震化の進展 |
| 地震火災による死者 | 約8,900〜1.6万人 | 約1.2万人 | 火災対策の推進 |
出典:内閣府「都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】」(2025年12月)
過去の大地震でも、同じことが繰り返されてきました。1995年の阪神・淡路大震災では倒壊した建物の多くが旧耐震基準のものでしたし、2024年の能登半島地震でも旧耐震基準の木造家屋に被害が集中しました。地震はいつ来るかわかりません。だからこそ、「来る前に動く」ことに意味があります。
住宅の耐震化率とは、住宅ストック全体のうち耐震性を有する住宅の割合のことで、令和5年(2023年)時点で全国約90%です。国土交通省が総務省「住宅・土地統計調査」をもとに推計した最新値です。
全体では約90%でも、住宅の種類別に見ると差は歴然です。
| 区分 | 総戸数 | 耐震性あり | 耐震性が不十分 | 耐震化率 |
|---|---|---|---|---|
| 住宅全体 | 約5,570万戸 | 約5,000万戸 | 約570万戸 | 約90% |
| 戸建て住宅 | 約2,930万戸 | 約2,480万戸 | 約450万戸 | 約85% |
| 共同住宅 | 約2,640万戸 | 約2,530万戸 | 約110万戸 | 約96% |
出典:国土交通省「住宅の耐震化率(全国)」令和5年推計値。四捨五入のため内訳の合計は総数と一致しない場合があります。
耐震診断とは、建築士などの専門家が壁の量・配置・接合部・基礎・劣化の状況を調べ、その建物が地震に耐えられるかを数値で評価する調査のことです。木造住宅の場合、結果は「上部構造評点」という指標で示されます。
| 上部構造評点 | 判定 | 必要な対応 |
|---|---|---|
| 1.5以上 | 倒壊しない | 対応不要 |
| 1.0以上1.5未満 | 一応倒壊しない | 原則として対応不要(改修の到達目標) |
| 0.7以上1.0未満 | 倒壊する可能性がある | 耐震補強が必要 |
| 0.7未満 | 倒壊する可能性が高い | 耐震補強が強く必要 |
出典:一般財団法人日本建築防災協会「耐震改修工事費の目安」。木造以外(RC造・S造など)はIs値で判定し、0.6以上が「危険性が低い」となります。
| 診断の種類 | 主な対象 | 費用の目安 | 所要時間 |
|---|---|---|---|
| 一般診断法(木造戸建て) | 旧耐震基準の木造住宅 | 自費なら10〜40万円程度/自治体助成で無料〜数千円のケースが多い | 半日〜1日 |
| ホームインスペクション(簡易) | 中古住宅の購入検討時 | 4〜6万円程度 | 1〜3時間 |
| 既存住宅状況調査(宅建業法対応) | 中古住宅の売買時 | 6万円〜 | 2〜3時間 |
注:費用は事業者・物件規模により幅があります。自治体助成の内容は市区町村ごとに異なるため、必ず窓口でご確認ください。
手順1 お住まいの市区町村の窓口に問い合わせる
「木造住宅耐震診断助成」「耐震診断士派遣」などの制度名で検索するか、住宅・建築担当課に電話で確認します。東京都内であれば「東京都耐震ポータルサイト」から区市町村別の制度を検索できます。
手順2 申請書類を提出する
一般的に必要な書類は、固定資産税納税通知書、登記事項証明書(登記簿謄本)、建築確認通知書または検査済証などです。
手順3 派遣された建築士が訪問診断
壁の量と配置、接合部の状況、基礎の状態、劣化の程度などを現地でチェックします。
手順4 診断結果報告書を受け取る
上部構造評点が示されます。1.0未満なら耐震補強を検討する段階です。
全国の制度を横断的に探したい場合は、国土交通省の特設サイト「住まいの耐震化 補助金・支援制度検索」で郵便番号から検索できます。
木造2階建て住宅の耐震改修工事費は、中央値186万円です。これは日本建築防災協会が、平成9年(1997年)以降に自治体の補助制度を利用した24,865事例のデータをもとに公表している実績値です。最も多い価格帯は100万〜150万円未満で、半数以上の工事が約190万円以下で行われています。
| 建物の種類 | 最も多い価格帯 | 中央値 |
|---|---|---|
| 木造住宅(平屋建て) | 100万〜150万円未満 | 140万円 |
| 木造住宅(2階建て) | 100万〜150万円未満 | 186万円 |
出典:日本建築防災協会「耐震改修工事費の目安」(平成9年以降の補助制度利用 24,865事例のデータに基づく)
診断で上部構造評点がわかれば、「現在の評点」と「目標の評点1.0」の差から、より具体的な費用の目安を出せます。たとえば延べ面積120㎡・現在の評点0.3の木造2階建てなら、目安は約190万円です。
| 評点差(改修後1.0との差) | 100㎡ | 150㎡ | 200㎡ |
|---|---|---|---|
| 0.3(評点0.7 → 1.0) | 110万円 | 140万円 | 160万円 |
| 0.5(評点0.5 → 1.0) | 140万円 | 180万円 | 200万円 |
| 0.7(評点0.3 → 1.0) | 170万円 | 210万円 | 240万円 |
木造2階建ての場合。算定式「耐震改修工事費(万円)=17.4 ×(評点差 × 延べ面積㎡)の0.53乗」による。出典:日本建築防災協会「耐震改修工事費の目安」
| 工事内容 | 費用の目安 | 効果 |
|---|---|---|
| 耐力壁の追加・補強(1か所) | 9〜15万円 | 水平力への抵抗力を直接高める。最も費用対効果が高い |
| 柱・梁の接合金物補強(1か所) | 5〜20万円 | 柱の引き抜けを防ぐ。2000年基準で義務化された部分 |
| 基礎の補強 | 20〜30万円 | 無筋コンクリート基礎の増し打ち等 |
| 屋根の軽量化(葺き替え) | 80〜150万円 | 建物上部を軽くして地震力そのものを減らす |
注:金額は一般的な目安であり、建物の状態・地域・施工会社により変動します。実際の費用は耐震診断と補強設計を経た見積りでご確認ください。
耐震改修の減税制度は、令和8年度税制改正によって所得税・固定資産税ともに適用期限が延長されました。旧情報では「令和7年12月31日まで」とされていましたが、現在は下表のとおりです。
| 制度 | 内容 | 適用期限(令和8年度税制改正後) |
|---|---|---|
| 所得税の特別控除 (耐震改修) |
標準的な工事費用相当額の10%を所得税から控除。 対象工事限度額 250万円/最大控除額 25万円 |
2028年(令和10年)12月31日まで (3年延長) |
| 固定資産税の減額 (耐震改修) |
工事完了の翌年度分の固定資産税額を1/2に減額(床面積120㎡相当分まで) | 2031年(令和13年)3月31日まで (5年延長) |
| 固定資産税の減額 (長期優良住宅化) |
耐震改修または省エネ改修により認定長期優良住宅に該当することとなった場合、翌年度分を1/3に減額 | 2031年(令和13年)3月31日まで |
| 所得税の特別控除 (長期優良住宅化) |
耐震+省エネ+耐久性なら対象工事限度額500万円(太陽光設置時600万円)/最大控除50万円(60万円) 耐震または省エネ+耐久性なら限度額250万円(350万円)/最大控除25万円(35万円) |
2028年(令和10年)12月31日まで |
出典:国土交通省「令和8年度税制改正概要」(令和7年12月)「既存住宅のリフォームに係る特例措置の延長」
耐震診断・耐震改修には、国と地方公共団体が協調して費用の一部を補助する制度(住宅・建築物安全ストック形成事業)があります。実際に申請する窓口は市区町村で、補助率・上限額は自治体ごとに異なります。次章で東京23区の状況を見ていきます。
住宅金融支援機構には、耐震改修工事に対するリフォーム融資があります。また満60歳以上の方が耐震改修工事を含むリフォームを行う場合、毎月の支払を利息のみとする「高齢者向け返済特例」や、機構の利子補給により無利子または低利子で利用できる【リ・バース60】という選択肢もあります。年齢要件があるため、詳細は機構の公式サイトでご確認ください。
東京23区では、23区すべてで旧耐震基準の木造住宅を対象とした耐震診断助成と耐震改修助成が実施されています。東京都耐震ポータルサイトに掲載されている区市町村の助成制度一覧(令和7年度)を集計すると、次のようになります。
助成率や上限額は区ごとに設定されており、世帯要件や地域要件で上乗せされることもあります。公表されている例を挙げると――
| 自治体(例) | 耐震改修工事助成の内容 |
|---|---|
| 北区 | 工事費の2/3、1棟100万円が限度。整備地域内は120万円、高齢者世帯等は150万円が限度 |
| 江東区 | 高齢者世帯の助成限度額を200万円に、障害者等世帯は助成割合10/10・限度額300万円に拡充 |
| 府中市(多摩地区) | 耐震改修費用の1/2、限度額170万円 |
出典:各自治体公表資料。制度内容・限度額は年度ごとに見直されます。必ずお住まいの区市町村の最新情報をご確認ください。
ホームインスペクション(住宅診断)とは、建築士などの専門家が住宅の劣化状況や不具合を客観的に調査し、報告する制度のことです。雨漏り、シロアリ被害、基礎のひび割れ、構造上の問題などを、購入前にプロの目で確認できます。
2016年(平成28年)の宅地建物取引業法改正により、2018年(平成30年)4月1日から、不動産業者には媒介契約時に「建物状況調査(インスペクション)のあっせんができる旨」を書面で示す義務が課されています。つまり、買主が申し出れば専門家を紹介してもらえる仕組みが、すでに制度として組み込まれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 費用相場 | 4〜6万円程度(物件規模・調査内容による) |
| 所要時間 | 1〜3時間程度 |
| 調査内容 | 基礎・外壁・屋根・内部(床・壁・天井)・設備など。目視を中心とした非破壊調査 |
| 実施できる人 | 既存住宅状況調査技術者(建築士が国の登録講習を修了した者) |
出典:国土交通省「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」
外観がきれいにリフォームされている中古住宅ほど、注意が必要です。表面の仕上げは新しくても、壁の内部や床下の状態は見えません。購入後に雨漏りや腐朽が見つかり、数百万円の修繕費が発生する――という事態は実際に起こり得ます。
インスペクションの費用(4〜6万円)は、こうしたリスクに対する「事前の情報料」と考えると、決して高い出費ではありません。結果次第で価格交渉の材料にもなりますし、購入を見送るという判断もできます。
Q旧耐震基準とは何ですか?
A旧耐震基準とは、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた建物に適用されていた基準です。「震度5強程度の地震で大きな損傷を受けない」ことを目標としており、震度6強〜7の地震では倒壊のおそれがあります。1981年6月1日以降の建築確認が新耐震基準、2000年6月1日以降がさらに強化された「2000年基準」です。判断の基準は建物の完成日ではなく建築確認を受けた日なので、登記事項証明書や建築確認通知書で確認してください。
Q耐震診断は無料で受けられますか?
A多くの自治体で無料または数千円程度の自己負担で受けられます。東京23区では23区すべてが旧耐震基準の木造住宅を対象とした耐震診断助成を実施しています(令和7年度・東京都耐震ポータルサイト集計)。自費で受ける場合の相場は10〜40万円程度なので、助成制度の活用による差は大きいです。ただし対象となる築年数・構造・所有形態の要件は区市町村ごとに異なるため、まずお住まいの自治体の住宅担当課にお問い合わせください。
Q耐震リフォームの費用はいくらかかりますか?
A木造2階建て住宅で中央値186万円、木造平屋で中央値140万円です(日本建築防災協会が24,865事例をもとに公表)。最も多い価格帯はいずれも100万〜150万円未満で、木造2階建ての半数以上が約190万円以下で完了しています。延べ面積別の目安は、100㎡で約180万円、150㎡で約230万円、200㎡で約270万円です。ここから補助金・所得税控除・固定資産税減額を差し引けるため、実質負担はさらに下がります。
Q耐震改修の減税制度はいつまで使えますか?
A令和8年度税制改正により延長されました。所得税の特別控除は2028年(令和10年)12月31日まで(対象工事限度額250万円、最大控除額25万円)、固定資産税の1/2減額は2031年(令和13年)3月31日までです。以前の情報では「令和7年12月31日まで」とされていましたが、これは改正前の期限です。なお、いずれも工事前の申請・手続きが原則で、着工後では対象外となる場合があります。
Q上部構造評点はいくつあれば安心ですか?
A1.0以上が「一応倒壊しない」の目安で、多くの自治体の助成制度でも改修後の到達目標が1.0以上に設定されています。1.5以上なら「倒壊しない」、0.7以上1.0未満は「倒壊する可能性がある」、0.7未満は「倒壊する可能性が高い」という判定です。助成の対象要件は「診断結果が1.0未満であること」としている自治体が多いため、まず診断を受けて評点を知ることが制度活用の入口になります。
Q首都直下地震の被害想定は前回より悪化したのですか?
Aいいえ、数値としては減少しています。2025年12月に公表された都心南部直下地震の想定は、建物の全壊・焼失が約40.2万棟(2013年想定は約61万棟)、死者数が約1.8万人(同 約1.6万〜2.3万人)です。建物の耐震化と火災対策の進展が主な理由とされています。ただし国が掲げた「10年で半減」という減災目標に対しては約35%減にとどまり、内閣府は住宅の耐震化率が目標(95%)に届いていないことを要因として挙げています。楽観できる状況ではありません。
Q全体の改修は難しいのですが、他に方法はありますか?
A寝室など一部屋だけを守る「耐震シェルター」や「耐震ベッド」という選択肢があります。東京23区のうち17区がこの設置費用の助成制度を設けています。建物全体の改修よりも費用と工期を抑えられるため、高齢のご家族が住む住宅や、近く建替えを予定している住宅では現実的な選択肢になります。また、旧耐震の建物を解体する際の除却助成も19区で実施されています。
耐震リフォームもホームインスペクションも、「何かあってから」では遅い。でも、正しい順番で動けば、それほど難しい話ではありません。
令和5年時点で、耐震性が不十分な住宅は全国に約570万戸。うち約450万戸が戸建てです。国の目標は令和17年(2035年)までにこれをおおむね解消すること。逆にいえば、今後10年は制度が手厚い期間だということでもあります。
地震は「いつか来るもの」ではなく、「いつ来ても不思議ではないもの」。首都直下地震の被害想定が10年ぶりに見直された今こそ、お手元の「備え」を一度点検してみてください。家族の命と大切な家を守る第一歩は、「まず調べる」ことです。
※本記事の情報は2026年8月3日時点のものです。補助金・税制・助成制度は変更される場合があります。実際の適用可否および金額は、各公式サイトおよびお住まいの自治体窓口で必ずご確認ください。